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ちりとてちん 印象に残ったせりふ 15

第17週 子はタフガイ

い、五木ひろし。
いかにも、五木ひろしです。
父と母が喧嘩しておりまして。
そうですか。
どねかして、仲直りしてもらいたいんですけど。
いい方法があります。
ええ方法?
えらい古典的な思いつき方やな。
それは? 一体どんな方法ですか?
いや、簡単ですよ。愛を、愛しあう気持ちを思い出させてあげればいいんですよ。
なるほど。
あなた方、ご夫婦ですよね?
はい。
とても、よくお似合いです。
いやあ、ほんまですか? あははは。
ですから、あなた方が仲良く円満であるというところをお母さんに見せてあげれば、きっと帰って来てくれますよ。

若狭。
はい?
落語会やろうか。
え? 何ですか、急に?
ここで。小浜で。お前と俺、二人で仲良う夫婦落語会やってるところ、お父さんとお母さんに見てもらうんや。
夫婦落語会。
あ、あのこんなトレーナー着て仲ええ振りしたって伝われへんねん。けど、お前と俺とでこう力合わせて落語会やってるところ見たら、仲良き事は美しき哉って思うてくれはるんとちゃうか?
ほやろうか?
うん。落語はお前にとっても俺にとっても、かけがえのないものや。大事に育てていこうという気持ち、未来へ伝えていこうという気持ち。これが共有できてる限りは俺らはずーっと一緒や。お前と俺は、落語で結ばれてるねん。
ほうですね。やりましょう、落語会。

何なんやろうか?
うん?
草々兄さんと私にとっての落語みたいな。お父ちゃんとお母ちゃんにとってのかけがえないもんって。

何をそないに不安になることがあるの? 喜代美ちゃん、あの天狗座の大きな舞台で何百人もお客さん前に立派に高座つとめてたやん。
天狗座の何百人のお客さんより、昔の同級生三人のほうが緊張するんです。
ええやん。昔の同級生なんかどうでも。
え?
教室の隅のメガネ女のことなんか気にもかけてへんかったくせして、ちょっとテレビや雑誌に名前が出た途端、手のひら返して友達づらして。友達づらして。
いや、私はメガネかけてませんけど。
そやからね、喜代美ちゃん。そこを乗り越えた時が、ほんまに喜代美ちゃんが変わった時や。なりたい自分になれる時や。

五木さん。
こんにちは。
どねしなったんですか? 父の塗り箸に、なにか不都合でも?
あ、いやいやこないだのお代金の支払いに来たんですよ。
へ? わざわざ。ほんまに、ありがとうございます。お忙しいのに。
お父さん、お母さん。仲直りしました?
五木さん、どんだけええ人なんですか? 仲直りはうまくいっとらんのです。
そうですか。それは困りましたね。
ほんでも、夫婦落語会やることになりまして。
夫婦落語会?
はい。

で、お母さん。見に来てくれるんでしょ?
それが、まだ誘っとらんのです。
どうして?
自信がなくて。
自信がないって?
私、高校生の時。学園祭で三味線弾くゆうて途中で投げ出したことがあって。ステージの真ん中に立つはずが、脇役になってしまって。お父ちゃんとお母ちゃん、がっかりさせてしまって。また、あん時見たいなことになってしまうんじゃないかって。不安で。ほやから、お母ちゃんを誘う勇気が出んのです。
そうですか。分かりました。じゃあ、私がお母さんのために一曲歌ってあげましょう。
ええ?
いや、そうすればあんただってお母さんを誘う勇気が出てくるでしょ?
ほら五木さんが着てくれるって知ったら、お母さん、喜び勇んで来ますけど。
お母さんが来ると決まってしまえば、あんただってそうやって尻込みしてはいられなくなる。何が何でも頑張ろうって気になるでしょ? いかがですか?
何でですか? 何でそこまで。
いや、何だか私もね。他人事ではなくなってきてしまったんですよ。
ひろし。

あんなお母ちゃん。今度の日曜、草々兄さんと私で夫婦落語会やるでえ、絶対来てな。
夫婦落語会?
それでな。五木ひろしがゲストで出てくれんねん。
え? 行かんわ。
え、何で?
デタラメに決まっとるやな。
それがほんまなんや。五木ひろしが『ふるさと』歌うてくれるんやて。
行くわ。
ちょっと。何で正平が言ったら信じんのよ?
そら正平が言ったら信憑性あるわ。
そう言う思うて連れて来たんやさけえ、ええけど。


正平は、UNIVERSITYと書いてあるメモをお母ちゃんに見せて。

お母ちゃん、これ。僕のパンフレット、見たんか?
掃除しとってえ見つけたさけえ。
それでお金の心配してえ、お父ちゃんと喧嘩したんか? あんな、お母ちゃん。確かに僕は留学も考えた。恐竜博物館の学芸員になろう思うたら、まずそうせなあかんからや。ほやけど家にそんな余裕ないの分かっとるでえ、諦めた。
正平。
気遣こうてるわけやないでえ。遠慮しとるわけでもない。ただ、僕は身の丈におうた選択をしとるだけや。


落語会の当日、電話がかかってきて。

はい、和田です。
喜代美さん、五木ひろしです。
あ、五木さん。
今日の落語会なんですけどね。
はいはいはいはい。お待ちして...
いや、申し訳ない。ひょっとしたら間に合わないかもしれないんですよ。
え?
いや、今あの車で移動中なんですけどね。ちょっと渋滞に巻き込まれましてね。
いや、あの。
一応急いで向かいますけど。喜代美さん、私が行くまで高座を引き伸ばしておいて下さいね。
え、いやあの。五木ひろしに二言はないって。へ?

五木ひろしが来るか来えへんか分からないまま、落語会が始まり。草々兄さんのたちぎれ線香が始まってしまいました。

たちぎれ線香を聞きながらお母ちゃんが全然別なことを考えていたのを、私は気付きませんでした。

糸子さん、糸子さんしっかりせえ。糸子さん。
正典さん。
糸子さん。
いやあ、ほんまに正典さんや。
すまんかった。すぐ来てやれんで。すまんかった。小浜行こう。小浜で一緒に暮らそう。
ありがとう。けど、うち行けません。お母ちゃん一人、置いてかれんでえ。
もちろんお母ちゃんも一緒にや。
お母ちゃんは鯖江を離れたがらん。ここで生まれ育った人やでえ。借金かて踏み倒すわけにはいかんし。
そんなもん、わしが。
正典さんは修行中の身やな。そんなことはさせられん。来てくれてありがとう。もっぺん正典さんの顔、見られただけでうち元気でたでえ。

小浜へは帰らん。
あかん。
あんたをほっといて修行なんか出来ん。

二回目やな。お父ちゃんが五木ひろしの代わりにふるさと歌うてくれるの。おおきに。
お前のためやない。喜代美のためや。
分かっとる。ほやさけえ余計にうれしいんや。

あん時、お前のとこ行かんと親父のもとで修行積んどったら、もうちょっとましな箸が作れたかもしれんの。ほんでもやっぱり、お前を失わんで良かったと思うとる。
お父ちゃん。
帰って来てけ。お前がおらんと、わしの塗り箸は研いでも研いでも輝かんのや。

ええやな。無事に落語会は終わったんやで。
結局お父ちゃんに助けられたら世話ないわ。やっぱり私は高校ん時と何も変わっとらん。脇役のビーコや。
あんた未だに主役になるゆうのはステージの真ん中に立ってスポットライト浴びることやと思うとるんけ。
え?
ほうやないや。あの衝立の向こうの見えんところで、草々さんのために三味線弾いとるあんたも、お父さんとお母さんのために変な落語やっとるあんたも。ものすごい輝いとった。人にライト当てるゆうのは素敵な仕事やな。
なあビーコ。また時々小浜で落語会やってな。
絶対見に行くで。
ありがとう。
今度はエーコも一緒に行けたらええな。
ねえ、エーコ今、どねしとるん?

お前やったんやな。
え?
お父さんとお母さんを結びつけてるもんは、お前やったんやなって。まあ良かったな。
はい。何で仲直りしたんか、もう一つよう分からんけど。
うーん。二人にしか分からん夫婦の積み重ねがあるんとちゃうか、きっと。お前と俺にはどんなことが積み重なって行くんやろうな。楽しみやな。
はい。
遅うなったけど明日婚姻届出しに行こう。


そして、久し振りにエーコが登場。あの石を拾った。
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